『我々』が地上に降り立つ頃の話であった。
 イザナギとイザナミの生み出した大八島は、少なからずの発展を遂げ、半ば人間同士の覇権を争うようにまで、成長していた。これより、我々はこの地にて歴史を産み、未来永劫の世を作るのである。

 まずは拠点を築かねばならず、勿論降り立ったその場所を征服する必要があった。国津神共は怒りに狂い、我々を退けようと立ち上がるが、しかし、やはり所詮は荒ぶる神の末裔、天の威光に敵う筈もないのである。

「八意思兼(ヤゴコロオモイカネ)、ある程度の平定はなされたが、最後の一部族が手ごわい。これを何とすれば良いか」

 日向(ヒムカ)族の長、つまるところ天孫、アメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコトはそうおっしゃられた。智慧の随伴神たる私は、火による威嚇と恫喝……いいや、火による威厳の主張と交渉を持つようにと進言する。かの方はそれに頷かれ、そうなされた。

「大山津見(オオヤマヅミ)よ。我々は高天原より降り立ちし天の軍勢なり。大火はすぐにもそちの村を焼き払おうぞ。返答を待つものである」
「大御神に連なる者よ。驕る事無かれ。我々国津神は決して挫けぬ。引かぬ。与入らぬ。一族の命果てようとも、必ず黄泉より貴様等を祟ろう」
「八意、如何にする」
「何をお恐れになられるものです。これより那由多の時まで語り継がれようというお方が、このような場所でとどまる必要は御座いませぬ。早々に斬り捨てるが好いでしょう。サルタヒコは降った、しかしオオヤマヅミは降らぬ、それだけの話で御座います」
「……八意。お主は知恵に秀でておる。しかし、多少情が足りぬではないか。オオヤマヅミの一族は既に少数。ここで長まで首を刎ねては、以下の者たちに示しがつかぬのではないだろうか」
「……」
「大山津見」
「なんだろうか」
「一族の命は保障しよう。大火も消そう。お主の言葉は下々の者達にも力があると聞く。手を貸してはくれぬか」
「……しかし」
「時は動く。征服者は次に、また次にと現れるであろう。その度にお主は一族の大半を失うのか。今ここで我々に手を貸せば、永劫の地位と信仰を与えられる。如何か」

 大山津見は悩んでいる様子であった。村に押し入るまで、相当の数を我々は殺害している。大山津見の一族もまた相当数死んでしまっただろう。ここで天孫の言葉に耳を傾けない訳にもいかない。

「……対価は何か。無償とは言うまい」
「話がわかる奴だ。では娘を嫁に貰おう。お主の娘は我が后神となる。お主の地位も保たれる。失うものはない」
「――仰せのままに」

 大山津見が降る。これで九州の地は日向族のモノとなった。しかし、目ざといものであると思う。ニニギは良く、ここの神子の娘が美しいと口ぐちに語っていたではないか。確かにこの地は大切な要害であり、落すつもりだったとはいえ、公心よりも私心が強かったのではなかろうか。

 いや、そんなもの、考える必要はないのかもしれない。彼は戦が上手だ。話術も巧みだ。まさしく遣わされるべくして遣わされた天の軍勢の長なのだ。

「八意、后を迎えに行く。ついて参れ。他の者は祀の準備をせよ。大山津見の一族は丁重に扱え」
「「ハハァッ」」

 鶴の一声。力あるものの言葉。言霊とは、おそらくは彼のような人物に与えられるものなのだ。我一族とて偽物ではない。彼に追随を許さぬ高き血統である。しかし、こればかりは致し方ない。

「ニニギ様。娘は笠沙にいるようです」
「では向かおう。絶世の美女と聞くが」
「うわさでは。その容姿は満天の星空の如く、その気性は天真爛漫。そして山津見の一族の神子は、不思議な力を有しております」
「ほう。言うてみるがいい」
「なんでも姉妹で、片や早熟であり、片や不死と聞きます」

 山津見の子の噂は他方でも広がっていた。国津神の力が如何ほどであるのかなどかなり軽く見ていたのだが、それは私の予測を大きく超えるものであった。

 ……一面の草原。

 何もない緑の地平は、しかし、神阿多都の振るう手に従うようにして、満遍なく華が咲き誇る。天孫はそれを見、頷き、心打たれたのだ。

「誰です」
「我が名はニニギ。地平を平定せしめるものなり。そちの父上を破り、今や九州を手中とするものだ」
「私を殺すのですね」
「殺さぬ。后となれ、神阿多都(カムアタツ)。いいや、これよりは、此花咲耶と名乗れ」

 カムアタツ。その名は今をもって破棄される。天孫は感動をそのまま彼女の名前としたのだ。草木は全て彼女のままに。未来永劫の天孫の花嫁として。

 ……咲耶は、ただ少しだけ悲しそうな顔をして、運命を受け入れた。それが正しいと思えたのだろう。私も正しいと思う。闘って得るものはない。捨てるものしかない。この地は、遠からず平定されるのだから。



       ※



「何、孕んだ?」
「はい。私は早熟の神です。天孫様に少しでも早くお子を授けたいと祈りましたところ、このようになりました」

 流石の天孫もこれには驚かれて、私の様子をうかがうようにする。まさか婚儀をあげて次の日に妊娠する者が何処に居ると言うのか。いかな早熟の神とはいえ、あからさまに可笑しい。しかし、昨日は見目麗しい、花のような容姿であったにも関わらず、次の日にはまるで実をつけた桃のようになっているではないか。

 天孫が返答に詰まったので、この場は一度引き、私が調査するという事となる。
 山津見に話を聞くのだが、ごく当たり前の如くあしらわれてしまったのだ。

「あれは早熟の神子神であります。天孫様と阿多都が交わったのならば、然るにそのような事で御座いましょう」
「馬鹿にしているのか」
「滅想もない。八意様、どうぞ信じてください。姉妹は特別な御力を授かった子なのです」
「では姉はどこにいる。まるで見当たらぬが」
「……それが。天孫様と阿多都が結婚なさると聞いて、塞ぎ込み、姿を現さないので御座います」
「……お主、何を隠している」
「……すべては本当の事に御座います。神阿多都姫は事象を早め、岩長姫は事象の永遠を司ります。私は双方娶ってくださるよう懇願したのですが、天孫様は阿多都だけを、と。そう仰いました」
「ではすべて本当なのだな。あれは、后様の懐中におられるのは、御子で間違いない」
「はい。間違いありませぬ」
「……狸が、貴様……」
「く、くく……くははは。天孫様とて、早くお世継ぎが欲しいに決まっておりましょう。だから私めは、阿多都に早う子を成せと言うたまで」
「永遠はどうした。岩長は」
「さあ。しょぼくりかえって、どこかへ行きましたとも」
「……」

 つまりこういうことなのだ。あの姉妹は対である。双方を得る事によって弥栄を手にする事の出来るものであるのだ。然るに、片方だけを娶っても、それは早熟しか訪れない。唐突な繁栄は死を意味する。そこで必要な筈である岩長がいない。これでは意味がない。

 山津見一族の最後の抵抗。ある意味で、最悪の呪、未来永劫に続く早熟の呪だ。
 私はそれを伝える為に、天孫の元へと飛び帰る。が、しかしすべては遅かったのだ。

 ――村の一角に聳え立つ火柱。

 何事かと思い、話を聞けば、今まさにこの火中にて、此花咲耶が出産していると言うではないか。まかり間違っても早計であるべきではないとあれだけ忠言したというのに、あの男、想像していた以上の鬼畜。

「ニニギ様! 一体なにをなさっているのですか!」
「一日で妊娠など有り得ぬ。国津神の子であるに違いない。故、この火中にて出産出来うる強いものならば、間違いなく我の子であろうと思うのだ」
「しかし、それでは大事な后が!」
「……うろたえるな八意。八意永琳。我は見たのだ。かの女の素晴らしさを。この程度で焼け死ぬような娘ではないのだ。誰の后だ? 我の后ぞ」
「――なんて事を」


 こんな時代でなければ。

 こんな世でなければ。

 身を焦がし、憎らしい男の子を産む必要もなかった。

 もしも。

 もしもこの身を受け入れる時代があるならば。

 もしもこの身を受け入れる場所があるならば。

 嗚呼、憎たらしや、天津御子。


 私に伝わってくる。女の身である私に伝わってくる。アメノウヅメもまた、この言葉に対してうろたえているのだろうか。他の女たちもまた、その言葉に畏怖と憐憫を感じているのだろうか。

 天孫は笑っている。
 さもありなん。
 火の焚かれた小屋から、此花咲耶が、三子を抱えて、出てくるではないか。
 その身は焼かれ、焦げているではないか。麗しいその容姿は爛れ、息も絶え絶えに。

「よくやった、咲耶。まさしくこれは我が子である。そしてお前は我が后である。八意、すぐに治療せよ」
「……仰せのままに」

 女は、女は。
 いや、言うまい。言うまい。
 此花咲耶を抱き、私は彼女を懸命に治癒する。彼女は死にたいのかもしれない。しかし、なんだろうか。

 この――晴れやかなる笑顔は。



        ※



「私。阿礼。咲夜。妹紅。そして八ヶ岳、か。げに恐ろしきは、この幻想郷という、大魔術ね」

 何かを成すべきであると、そう思う事がある。諦観も達観も、観念における意味すらも通り越してしまった自分は、ただしかし、現状において満足であるのだ。そこにはすべてが満ち足りており、更に付け加える必要もなく、幸せは幸せのまま額面通りに受け取れるだけの、心らしき心がある。

 何を成すべきか。パズルのピースは全て揃っているのだから、これを完成させる事こそが、己の役割であると、そう、八意永琳は思う。

 月読に乗せられ、月にまで赴いて文化発展に尽力し、所詮は自分が道具だと思いながらも、それなりに生きて居た頃を、たまに追憶する。そしてそんな惰性を打ち壊し、また地上の民として生きる道を選んだ自分。

 何の因果なのか。
 地上にも幻想郷が存在した。
 何の因果なのか。
 そこには自分に過去かかわった人物が数多いた。

 すべては連なる意思の元なのかもしれない。では、きっとこの地上において、幻想郷において、彼女たちの過去を網羅する自分は、やはり必然的に、何かを成そうと思うのだろう。

「ウドンゲ、近状報告」
「はい。主だったものを報告します。兼ねてから師匠が心配されていた八ヶ岳ですが、活動が尚も活発化しており、噴火の危険があると天狗、及び河童達が騒いでいます。現在は守矢が出張り、これの鎮静化をはかっている模様ですが、状況は芳しくないそうです」
「そう」
「次に妹紅ですが、夜半過ぎに人里へ飛び去る姿を目撃しました。恐らくは上白沢慧音の放った使者が現れた後の行動ですので、慧音女史の思惑かと」
「紅魔館は」
「はい。現在も諜報部隊が張り付いています。午前一時までの情報ならありますが」
「聞かせて」
「はい。差し障りのない程度にまで調査した結果、どうやらパチュリー・ノーレッジと十六夜咲夜が仲違いをしている模様です。双方気性は荒くないので皮肉を言い合う程度でしたが、すごく険悪でした」
「レミリアはなんと」
「はい。仲違いする事は、予見出来ていたそうです。レミリアは師匠と内通されていたようですが、その、一体なにを?」

 鈴仙はそこまで報告すると、やっと己の疑問を永琳へとぶつける。それももっともだ。普段なら鈴仙に間者のマネなどさせないと言うのに、ここ最近は幻想郷の諜報にかかりきりである。

「過去遊びよ。過去遊び。いろんな因果をくっつけてね、神話を再現するのよ」
「師匠の考えは良く解りません」
「私は楽しいから良いわ。今度、人里で甘いものでも食べましょう。報酬はそれでいい?」
「……あのレミリアが、良く師匠の話なんて聞きましたね。何か秘訣でもあるのですか。弱みとか」
「貴女は、もし輝夜が私の秘密を知りたいと言って協力を呼びかけてきたら、乗るでしょう?」
「物にもよりますけれど、はい」
「そう言う事よ。下がっていいわ」

 チリチリと、ちらつく運命の糸が紡がれて行く。レミリアの協力が必要不可欠であり、最初で最後のネックではあったが、そこから先と言えばもう、怒涛の如くすべてが順調である。

『咲夜が何者なのか、知りたくはないかしら』

 その言葉を受けたレミリアの顔と言ったらなかった。恐らく今後見ることもないであろう、マヌケな面だったろう。レミリアはメイドなど何者でも良いのかもしれない。完全で瀟洒なメイドならば、それこそ誰でもいいのだ。咲夜を雇うまではそう思っていただろう。

 しかし、咲夜は違う。ただのメイドではない。
 あれの可憐さよ。あれの瀟洒さよ。あれの完全さよ。あれの美麗さよ。まさしく唯一。まさしく鉄壁。
 男か女か、人か吸血鬼か、なんてものは、これだけの完成された存在の前ではあまり意味の無いものなのだ。レミリアは咲夜に心酔し、そして溺愛している。

 想像するだけで笑えてくる。アレの見せる儚さを傍らで覗く機会は何度もあろう。きっとレミリアはその度に心晴れやかになるに違いない。そしていかがわしい妄想を抱くに違いない。どれだけ長い間主として君臨してきても、咲夜程の人材があった時代などないだろうから。

「さあ、私も動かなきゃ」

 ……いつまでもプレイヤーが呆けている訳にもいかない。面白い運命へと導くならば、ちゃんと場を整えて行かねばならない。
 その先にある何かを見て、そして知りたい。十六夜咲夜が何を望んだのか。

「妹紅はもう帰っているかしらね」

 永遠亭を出て、竹林を行く。遠方より引き込まれた高草郡はこの地に良く根付き、そして繁栄を齎した。やはり落ち着くのだ。己のような郷愁の塊は、当時にあった光景を愛でるのが良い。そこに良き記憶も悪しき記憶もあるだろうが、すべては過去の遺産。記憶とは常に美化され、ああ、良い時代であったと和ませてくれる。

 世代が違おうとも、そんな光景にまた想いを馳せるものがいる。輝夜然り、藤原妹紅然り。
 輝夜はいつも変わらない。優雅に微笑み、高等存在である己をひけらかしながらも、しかし嫌味も感じさせない空気は賞賛に値する。時折見せる本物の笑顔ときたら、自分の心をも溶かしてしまうほどに、耽美である。

 そんな姫君が気にかける者。望まれて生まれ、望まれず蔑まれ、憎悪と共に暮らし、粗野に生き、蓬莱となった藤原妹紅。我が姫とは似ても似つかぬ女で、何事も荒事にしたがるその醜悪な思考回路は、ある意味で強くあり、ある意味で阿呆である。が、しかし、そんな奴でも、八意永琳は愛しく思っているのだ。

「妹紅、いるかしら」
「……永琳か。なんの用事だい」

 竹林の入口に、彼女の家がある。荒んだ生活が板についてしまっているのか、とても女の家とは思えない荒れようだが、彼女はそれを由としていた。どうせ生きている間に朽ち果てる、管理者もいない借家。滅びぬ己を怨み、滅びる物を尊く思う暗喩なのだろう。

「入れてくれるかしら。少し、お話がしたいのよ」
「珍しい。明日は隕石でも降るのかね」
「鋭い。限りなく正解」

 妹紅に座敷へと招かれる。ボロボロの座布団を寄こされ、欠けた湯呑を出された。本当に脆いものが好きだ。

「実はね、妹紅。貴女に謝りにきたのよ」
「正気かい、永琳。明日にゃ山が噴火するな」
「冗談じゃないの。実はね、貴女の舐めた蓬莱の話だけれども、もしかしたら、まだ貴女が普通に死ねるかもしれない余地があるのよ」
「――」

 妹紅はそれを聞き、絶句する。当たり前だろう。他の何者でもない、製作者の永琳が口にする言葉なのだ。誰が言葉としても冗談にしかならないそれだが、永琳に限っては違う。妹紅とて予測していたのだ。永琳が製作者ならば、ではそれを解呪する薬も存在するのではないだろうかと。

 妹紅は拳を握りしめ、肩を震わせる。何事か口にしようとしていたが、やがて落ち着き、自分も座布団へと坐した。

「まず、謝罪を聞きたい」
「直接ではないけれども、私の不手際だったわ。ごめんなさい、妹紅。謝っても仕方のない問題だとは思うの。けれど、ちゃんと手順は踏まなきゃいけないわ」
「……いいさ。今さらだもの。私は今でも、十分に幸せだし、過去は過去で良い思い出だったと笑えるよ。永琳、私は素直に、お前が謝ってくれた事が嬉しい。ホントウは輝夜に頭を下げさせたい所だけれど、いいさ」
「それは良かったわ。少しずつ、こうして雪解けして行けば、貴女が死ぬ時も、私たち永遠は隣で笑ってあげられる。微笑んであげられるわ」
「――今さら死なんて望んじゃいないよ。けれど、もちろん、その理由は聞きたい」

 当然ね、といって、永琳は妹紅からまず服用した経緯と、状況を聞き取る。
 ――概ね、因幡達に諜報させた通りの話だ。

「あの蓬莱の薬は完全じゃなかったわ。強い外的要因があれば、この呪を打ち破れるかもしれない。私は確かに永遠を作れる。けれどそれも、根源の力を蒐集して手に入れただけの話。大元の知識があれば、もしくは」
「……その大元の力というのは?」
「おそらくは貴女も馴染み深い、岩長姫よ。あれは不死を完全の状態で扱える。そこを解析すれば、あとは私が、解呪の薬を作ることが出来るわ」
「は、はは。まったく、なんてタイミングなんだ」

 永琳の言葉を受けて、妹紅は次第に笑い声が強くなって行く。終いには腹を抱えて転がってしまったではないか。本来は無邪気な娘だったのだろう。輝夜に父を侮辱され、怒りあまり……そこは、同情に値する。この笑顔を見れば解るのだ。彼女が本来通りならば、きっときっと輝夜にも劣らぬ気品と優雅さを湛えた女であれただろうと。時折見せるその笑顔はきっと美しいだろうと。

 チクリと心を刺すものがある。永琳は、その笑顔なれば彼女を愛でられると、そう思うのだ。

「実はね、八ヶ岳に行く予定があったんだ。慧音の申し出で、最近活発になった火山の視察についてきてくれまいかと。ああ、引きうけたとも、引きうけたとも」
「では」
「今死ぬなんて言わないよ。いつでも死ねるようになるなら、それこそ素晴らしいじゃないか、永琳。お前は私を殺してくれるんだ。ああ、憎いお前だったけれど、今はとても愛しい気がするよ!」
「よかったわ。今後、夜の娯楽も増えるかしら」
「気が向けばね。かまわないさ。きっと私はお前と楽しめるよ」

 妹紅は上機嫌にそういって、お茶を飲み干すと、土間から甕を一つ持ってくる。どうやら自作のドブロクらしい。どこかデジャブがあったが、それはさておきとして、本題はこれからなのだ。

「それと、もうひとつばかり、貴女に伝えなければいけない事実があるの」
「……ほほう。これ以上楽しい事があるってのかい」

 妹紅は濁酒を注ぐ手を止めて、此方に向き直る。その瞳は興味津津と言ったところだ。今の話はもちろん、嘘ではない。ちゃんとした根拠もあるし、可能性だけで『出来る』と言えるならば間違いのない真実だ。

 だが、これから話す事実は、もっと信憑性のある真実なのである。それを耳にした妹紅は、はて、どのような顔を見せてくれるだろうか。

「その岩長姫だけれどね、恐らく、貴女の仇の場所を知っているわ」
「こ、此花咲耶の、居場所か? 富士じゃないのか」
「富士に居るわ。そしてどういうわけか、幻想郷にもいる。理由は解らないけれど、それはこれから調べるの」
「……ここまで都合が良いと、まるで騙されているかのようだ。なあ、永琳」
「謝罪した早々に嘘なんて吐かないわ。希望に充ち溢れる貴女の笑顔、とても素敵だもの。そんな女性を欺いたり出来ない」
「それはどのくらいの確率で居る」
「八ヶ岳が、活性化したでしょう」
「……そうだ」
「岩長は怒っているわ。そして、喜んでいる。幻想郷に封入されて、晴らせなくなった恨みをやっと晴らせるから。削られた山肌の恨み、それはとても深いわ」

 そしてそれ以上に、太古の昔、あったはずの憎悪。
 更に、ここには新たな憎悪が芽生える。

「真犯人が幻想郷にいるって言うなら、私が黙る訳もない」
「岩長は知っているわ。誰が此花咲耶なのか」
「明日にでも向かおう。ありがとう、永琳。これでもう、永遠亭との禍根は断たれるにも等しい。別に、私だってお前らがそこまで憎い訳じゃないんだ」
「じゃあ、仲良くしましょうか、妹紅」

 差し出された酒を飲む。毒など効かない身ではあったが、復讐の悦楽に陶酔する妹紅の笑顔が、あまりにも愛しかったからだろうか。まるで酔ったかのように、まどろんでしまう。

 さあ、動きだした。
 後は主人公が行動を起こすのみ。さすれば、全てが始まる。自分が見る事の叶わなかった神話の結末が訪れる。
 誰も損をしない楽園で、誰も損をしない夢に興ずれる。
 邪魔者はいない。
 現状を危機とは誰も認識していない。それもそうだ。これは限られた者達最後の物語。これよりもこれからもこの素晴らしき大魔法を実演し続ける博麗と八雲には、関係のない話なのだから。

「そうだ、何か作ろうか。お腹も空く時間だろうし」
「本当に機嫌が良さそうね」
「そりゃそうさ。感謝しても足りない。何も持て成してやれないのは、流石にこちらが辛い」
「なら、ご相伴にあずかろうかしら」
「そうしてくれると嬉しい。 “たとえお前が嘘をついていたとしても、私はお前が謝ってくれたことを心から感謝して“ いるんだ」
「……妹紅」

 ……。存外、いじらしい奴ではないか。なんだか次第に、輝夜が本当に悪いのではないかと思えてきた。思えば、永琳が突如やって来るのもおかしければ、こんな都合の良い話を持ちかけるのもおかしい。妹紅とて馬鹿ではないのだから。永琳の言葉を訝りながらも、しかし本当の笑顔でいられる彼女は、やはりどんなものよりも強く、たくましいのかもしれない。永久を生きる永琳は、もう失って久しい戯れを想起し、ニッコリと微笑みかけた。

 ――永琳は悪くないし、悪意もない。ただ、パーツがすべて揃っているから、それを当てはめようとしているだけに過ぎない。それこそが幻想郷に降り立った理由であるように思えるからだ。

 これから関わる人々に、多少の齟齬は発生するだろう。しかし、決して無駄ではない筈だった。そこに導き出される神話の再現は、誰も傷つけない。傷つける事も叶わない。すべてはあるままに、である。

「永琳も笑えるじゃないか、綺麗に」
「ええ。なんだかね、とっても懐かしくって……とっても、悲しくって……嬉しくて……」
「な、泣くなよ」
「彼女が本当に幸せに、そして自由な意思を持てる日が来る。彼女は望んだのよ……だから、ありがとう」
「いいよ。まあ、いいや。泣きなよ。悲しきゃ泣けばいい。私は鼻歌でも歌いながら、ご飯を作るよ」

 妹紅はそう言って、居間を離れる。それを見届けると、永琳は手で顔を覆い隠し、たださめざめと泣き晴らすのだった。
 女は。女というものは。
 いいや、言うまい。言うまいと思って来た。
 だが、この郷はあまりにも美しく、それを言い留まるにはあまりにも、奇跡に満ちていた。
 八意永琳は心から泣く。
 さあ、解放の時が始まる。虐げられ、自由を奪われた者が苦悩し、葛藤し、答えを見出す為の神話が始まる。

 女というものは。かくも、強いものだ。




 活性 此の花




 不思議な夢を見た。
 登場人物たちは皆紅魔館の者達で、しかし、何かにつけても荒唐無稽で具体性がない。最近、疲れているのだろうか、なんて考える。人は何かに追い詰まると、脳みそが夢で危機を知らせてくれるのだと、確かパチュリーが言っていた事を、十六夜咲夜は思いだす。

 相当寝ている間に動いたらしく、髪の毛がボサボサである。鏡台の前に座って銀色の髪を梳かし、寝ぼけ眼の自分を諌める。夢見が悪かろうが疲れていようが、自分が動かなければ紅魔館は回らないのだ。
機械的に準備を整えてから、カーテンで仕切られた窓を開く。空気は冷たい。外はもう陽が沈みかけていた。紅魔館はこれから営業開始である。

 部屋を出ようとして、ふと大変なものを忘れたと思い出し、踵を返す。
 鏡台に置かれた懐中時計を手に取り、少しだけほっとする。別段と、業務に支障は無いにせよ、タイムキーパーという性質上、もしくは十六夜咲夜という性質上、これがないといまいち締まらないのだ。時計が狂っていない事を確認し、改めて廊下へと出る。

 だだっ広さが売りだ。部屋を出るとまずこの無駄なまでに紅い絨毯と、無駄に高い調度品が目に入る。しかし、それで良いのである。紅魔館とは豪華主義であり欲望の権化でなければいけない。確かそのようにレミリアが言っていたので、ご主人様の意見は尊重し、己も同意する。

 自室は二階にある。階段で一階ロビーに降りると、まじめな妖精数匹が咲夜を出迎えた。今日は割と集まった方である。珍しく仕事を生きがいにした妖精もいるので、咲夜はアカラサマな依怙贔屓をするのだった。褒めてやれば喜ぶ。故に仕事もしたがる。仕事の能率もあがる。良い事尽くめだ。

 ここに集まる妖精メイドは班長とし、指示を紙に書いて渡し、他の妖精メイド達を仕切らせる。これを終えると、咲夜は次へと向かった。

 昼から夜にかけては襲撃者が多いので、門番のシフトは何時も美鈴が入っている。夜は適当で良いのだ。何せ夜は吸血鬼とボス番犬が紅魔館を徘徊している。ならず者がやってきたら瞬きする間に明日のご主人様のお飲物だ。そろそろ交代の時間であろうから、まずはキッチンに向かい、ホットミルクを作っておく。この時期は例え妖怪とて流石に寒い。

 使用人用の出入口から出て門へと向かう。が、ここで早速予定が狂った。門では妖精メイドがはしゃいで遊んでいるではないか。門番はどこへ行ったのかと聞けば、解らんとのたまう。仕方なく、ホットミルクは妖精へと与え、咲夜は職務怠慢者狩りを始めた。

 予定が狂うのを嫌い、咲夜は懐中時計の時間を止める。別に懐中時計を止めずとも時間は止められるのだが、これは儀礼的なものであり、個人的な術式解除であった。他意は、あったような気がしたが、今はどうでもいい。
だだっ広い紅魔館を歩きまわり、結局見つからなかった。まさかと思い地下に降りて見る。色々と最悪の展開をある程度予測し踏み込んだが、それは気負いすぎであった。大図書館の扉が開き、そこから美鈴が出てきたのである。冬だと言うのに寒そうな格好ねと皮肉ると、彼女はアハハと乾いた笑いを漏らした。

 しかし何故大図書館なのだろうかと疑問に思う。幾らシエスタが得意な美鈴とて、職場放棄をしてまでパチュリーに逢いに来るのは違和感があるのだ。パチュリーが無理やり来いと言ったのなら理解出来るのだが、そのあたりを尋問してみると、どうもはっきりしない物言いをされる。紅魔館にありながら口には出来ない事。ましてメイド長様に言えない事実とは何なのか。

 もう少し突っ込んでやろうと考えたが、しかしパチュリーが間に入ったとなると面倒事そうなのでやめる。紅魔館タテ社会においてはパチュリーの方が上に位置している。権力には盾突かないのが良いだろう。
が。

 ここ最近の自分と言えば、そうでもない。パチュリーに対してどうしても聞きたい事があるのだ。故、部下でありながらも上司に盾突くような真似を繰り返している。

 美鈴にはキッチンにある食材で自分の飯を適当に作るよう指示、泣かれる。ちょっとその仕草が可愛かったので、キッチンまで戻り、夕飯を作ってやった。もちろん、ご主人様達のおゆはんの片手間だが。

 改めて食事を持って大図書館へと向かう。通常のお館ならまずご主人様が優先であろうが、紅魔館は通常のお館と逆転する部分が多いので、起きている者が優先だ。それにお嬢様がたはお寝坊である。
大図書館に入ると、小悪魔達が忙しなく働いているのが目に入った。その間をすり抜け、高い高い本棚の間を行き、パチュリーが拠点とする机にまで向かう。

 彼女はランプを灯し、薄暗い中で黙々と本を読んでいる。咲夜が来ても挨拶する気配もない。普段ならばもう少し愛想があっても良さそうであったが、現状でいえばむしろ挨拶する方が咲夜には違和感がある。

 何もしゃべらないので、適当に食事を置き、その場に待機する。今日こそ話してくれますか、と問えば、完全に無視された。非常に感じが悪いが、咲夜の去り際に一言、ありがとうと言った。給仕する事自体には感謝しているらしい。

 大図書館を出る。台車を押しながら地下の廊下の端まで行き、それから料理を手に乗せ、更に階段を下りて地下へと向かう。様々な術式の書きこまれた鉄の扉がすぐに咲夜の目に飛び込んだ。これは単なる演出だ。

 扉を押し開き、中へと入る。石造りの真っ暗な部屋の真中に、ポツンと一つのベッドがある。そこには主の妹たるフランドールが、脚をぶらつかせて座っていた。

 咲夜を目にすると、うれしそうな顔をする。そんな柔らかい笑みに、思わず咲夜も微笑むのだ。
 咲夜が思うに、恐らくは破壊の権化であるフランドールだが、同時に自重の権化でもある。
 彼女は良く狂っていると表現するものも居るが、ただ純粋に狂っている訳ではなく、自覚して狂っているのである。

 自分の力を認識し、どれほど危険かをわきまえ、その上で地下に居る。主人たるレミリアは、それを自らの罪として被っているのだが、実際は同意の元なのだ。大体、それだけ恐ろしい存在なら、何故閉じこもっている必要があるのだろうか。館の者皆、鏖殺して出て行けばいい話なのである。つまり、そういうことだった。

 フランは良く喋る。そして博識だ。ただし、頭の回転が人間以上なので、咲夜が理解出来ない事も多い。愛想笑いは許されている。彼女は咲夜の笑みが好きだったのだ。前掛けをしてやり、テーブルに食事を並べる。吸血鬼にとり、食事は嗜好品以外の何物でもなかったが、ここの妖怪たちは皆人間のように生きるのが好みだった。特に外界との接触が少ないフランにとって、食事時は誰かに会える機会であり、楽しみである。

 フランは唯一神にお祈りし、更に八百万に感謝してから食事を始める。神様なんてものは紅魔館においてごった煮に他ならない。そしてごっこ遊びのネタである。

 咲夜はフランの隣に立ったまま控えていたが、フランが座れと指示したのでそうする。フォークを差し出して、野菜を食べさせてくれとご命令を賜るので、そのようにした。フランは嬉しそうにしてレタスを食む。咲夜も、その愛らしい姿に、思わず顔が綻んでしまう。

 本当は、皆で食卓を囲めれば良いのだが。
 咲夜がその旨を伝えると、フランはいいのいいのと言う。健気であった。何もかも悟りきり、達観してしまったフランの綺麗で穢れない髪をそっと撫でる。

 自縛する事を心に決め、生きる決意をする彼女。せめて彼女の癒しになればと、咲夜はそんな想いを込め、ただ髪を撫でる。フランはくすぐったいと笑い、そして咲夜も笑った。

 地下室を後にし、次はやっとご主人様の元へと向かう時間だ。もしかしたらもう起きているかも知れない。咲夜の勘はそう言っている。

 案の定、部屋に入ってみればレミリアは既に着替えを終えていた。遅れた事を謝罪すると、いいのよ、と一言だけ返される。食事はどうするかと問えば食べると言うので、すぐさま部屋に準備する。

 普段なら、おはようの一言を欠かさず口にしていたのだが、ここ一か月はそれがまるで無い。
 一抹の寂しさを感じるものであったが、気分屋な主人だ、そのうちまた挨拶し始めるだろうと考えている。

 食事を終えたレミリアだったが、これもここ最近の話、だいぶ残すようになった。食事なんて嗜好品であるし、食べなくても生きて行けるのは解るのだが、何故残すのだろうか。

 僭越ながらそのあたりを質問すると、一瞥しただけでなんの返答もない。酷く冷え切っていた。
 いつもは必要とされる己がまるで否定されているようで、不安になる。原因は何だったかと考えても、思い当たる節はまるで見当たらない。

 自分という奴は常々完璧完全であるよう努めてきた。勿論、それは主観であり、レミリアの客観からすれば違ったのかもしれなかったが、しかし落ち度を指摘される事もないのである。思い切って訊いてみようか。

「お嬢様……私は、必要ないのでしょうか」



        ※



 時間を止める。
 世界は光を失い、すべてが灰色になってしまった。自分の周辺だけを世界から切り離し、咲夜はベッドに身を横たえ、大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 肉体的に疲れている訳ではなかったが、募る心労だけは隠せないでいた。つい数年前の自分ならば、何事も全て淡々とこなし、仕事は仕事として割り切り、ストレスの一つだってなかった筈であるにも関わらず、今の自分は正しく患う人間になっている。

 あんなに咲夜咲夜と慕ってくれていたレミリアが、いったいどうしてしまったのだろうか。結局先ほどだって、レミリアは何も答えてはくれなかった。咲夜の目を見、無感情に一瞥し、背を向けて去って行く。止める事も出来ず、自分は少しだけ手を伸ばして、ドアから出て行くレミリアの残滓に一抹の想いを馳せるのである。

 咲夜は何か、いけない事をしたでしょうか。
 奉仕する事に対しての礼がまるで無い。

 幾ら傲岸不遜な彼女であろうとも、礼を尽くす者を邪険に扱ったりはしない筈だ。ましてそれが他の誰でもない、自分に対してであるのだから驚きである。

 もしかしたら、と一つの起因になりえる出来事を思い出す。だがそれは、理由としては薄いのではないだろうか。言わずもがなパチュリーに対しての質問攻めだ。

 確かに、自分は過去にそのような質問を誰かにした覚えはない。稀なものであり、レミリアの態度に対する不安要素の一とあげても良いだろうが、しかし。

 昔の自分の事を聞いて、何が悪かっただろうか。
 レミリアが答えない為にパチュリーへと質問相手を変えたのである。それがいけなかったのだろうか。ワガママな彼女だ。その行動の何処かしらに気に入らないものがあったのかもしれない。

 では、質問をやめてみたらどうだろうか。
 そう決意する事でレミリアの態度が戻るならば良いのではないだろうか。だが、己の心に蟠る意識はその選択肢を否とする。

 時間は止まっている。
 思い悩む自分にとって、この世界こそが唯一自分を自分として保てる時間であるのかもしれない。
 そういえば、良く時間を止めるようになったのはいつからだったろう。確か、レミリアに懐中時計をプレゼントされて以来か。

 忙しい、という理由をつけて時間を止める。そこには束の間の自己世界が完成し、その中で暮らす自分は、その時だけ人間らしくいれた気がする。

 ……懐中時計を握りしめ、嫌な気持ちを閉じ籠める。
 何故ここまで思いつめる必要があるのだろうか。

 少し昔の自分は、考える事なんてしなかったのに。今ある現実こそが咲夜の生きるトキであり、奉仕する事が存在意義。めくるめく移り変わる世に関心はなく、紅魔館以外の事なんてどうでも良い。

 そんな自分に疑問を持ってしまうようになったのは、一体いつからであっただろうか。
 己を疑問に思った事は、過去数度もない。
 自分は紅魔館の必需品であり、レミリア・スカーレットが有する道具である。
 それ以上でも、それ以下でもない、筈だ。
 だが。

 幻想郷は有象無象の都である。本当に生物の腹から産まれたかどうかも不確かな姉妹と、もしかしたら自然界から湧出したかもしれないエレメントな魔女に仕え、プロフィール不明の妖怪に脅しをかける毎日。両親など見かけたこともない巫女が支配し、地球の起源に触れるかもしれない神様や、アカシックレコードを分解した挙句再構築して己の物としたかのようなスキマが闊歩するこの幻想郷で、果たして自分は確かだと言える証拠が何処にあるだろうか。
そうか、と一つ頷く。

 そして何故、と思う。

 レミリアは、十六夜咲夜の過去を掘り返したくないのではないだろうか。ともなると、ますます気になって仕方がない。時間を動かす。そしてまた仕事をする。なぜなのだろうか。どうして、自分はメイドなのだろうか?



       ※



 この際、ここまで嫌われたのなら、引き返す事もないとして、咲夜はそういった不定形な疑問を、知識の魔たるパチュリー・ノーレッジに、改めてぶつけたのだ。

 夜はほの暗く、テラスを映し出す月は十六夜。その月光を受けながら、紅茶を啜っていたパチュリーは咲夜を見やると、座った眼をより訝るようにして向けた。

「私が答えて、貴女は何を得るの?」
「解らないから聞いたのですわ」
「お夕寝レミリアはまだ起きてこないのね」
「お寝坊さんです。して、答えは?」
「貴女に答えてやるものはない」

 完全な否定である。この知識の魔、蘊蓄なれば誰よりも饒舌になると言うのに、殊この事に対しては口を割ろうとはしない。最初こそ彼女なりの哲学があって口にしないものであると納得していたが、ここ数日前からは十六夜咲夜に確かな疑念が湧出している。

「気になるんです。教えてはくれませんか」
「そも、生物単体の過去を穿り返しても、得るものなんてないから、私は知らないわ。貴女はメイド。私はご主人さまの友人。何か問題があるの?」
「お嬢様も教えてくださらないんです。聞けば、パチュリーに聞け、と言うばかりで」
「とんだ厄介を投げて寄こすわね。この質問は、もしかして私が答えるまで続くのかしら」
「はい」

 何が咲夜をここまでするのか。己の起源など掘り返して得るものは少ないと言うのに。そんなものを発掘して、得るものは往々にして狂気である。自分を同一化出来なくなり、疑念と煩悶で精神に異常を来す。

 パチュリーはひとつ、大きな溜息を吐き、咲夜を横目で見てから頷いた。

「……永琳め」
「薬師がどうかしましたか?」
「Gの32 魔法植物関連の棚。魔法植物観察日記の、Vと[と\」
「そこに何かあるんですか」
「貴女が狂っても、こっちは責任なんかもたないわ。私は確かに貴女を救った。救ったの。結果的にね」

 ここ数日続いた口論に決着がつく。咲夜とて、この動かぬ大図書館と喧嘩などしたくなかったのだ。教えてほしいものを教えて貰えれば十分である。ふかぶかと頭を下げ、その場を離れる。

「……永琳?」

 パチュリーがやっと教えてくれるというのだから、それはそれで良かったのだが、また一つ何かしらの不安要素が湧出する。いったい、永琳が何だと言うのか。

 永琳といえば一か月前に一度、レミリアへ面会に来た事がある。不躾だとは思ったが、あの天才が、何も無しに態々紅魔館に現れるとは思えなかった為、直ぐ近くでこれを盗み聞きしていた。耳にする限りでは、日常的な世間話であったのだが、永琳が帰り際に、明らかな確信をもって自分をたしなめるよう一瞥したのである。

 会話の裏で念話していたのだと気がつかされた。自分に対して隠さなければいけない話など、そう多くはない筈である。新たな異変の算段かとも考えたが、レミリアはそれ以来、永琳が現れた当時の話を口にはしなかった。
 ……思い起こせば、そうだ。レミリアの愛想が悪くなった時期とも一致する。

 八意永琳。

 月の民であり、現在は永遠亭でひっそりと暮らす、有象無象が跋扈する幻想郷でも尚変人に分類される『人間』である。これがうちのご主人様と一体どのような関係を持つのが、甚だ疑問でならなかった。

 永夜異変時、あの女は自分を見て何かに驚いた。それ以降、なんのアクションも無く、落ち着いた振りをしていたのだろうが、今回はあからさまである。

「Gの32……うん?」

 様々な思考を巡らせながら、目的場所を探っていたのだが、視界の端に何かが移りこんだ事実が飛び込んでくる。妖精メイドか、小悪魔か。魔法の本から漏れ出たモンスターか。どれにせよ、疑わしきものはそのうち駆除される為、構わず本棚へと向かう。

「やられた」

 ――魔法植物観察日記の[と\が無い。

 Vは丁度足元に落ちていた。咲夜は本を拾い上げると、すかさず犯人の足跡を追い始める。先ほど目にした物体がそれであると推測し、時間を途切れ途切れにしながら追って行くと、図書館の出口でそれは立ち往生していた。

「因幡てゐ。紅魔館に何用かしら」
「げっ、メイド!」
「その本を置きなさい。そうすれば兎鍋だけは免れる」
「あはははー。いやあ、どうもお、そのおー……ていっ」
「ぷあっ」

 てゐは手にしていた本を抱え込むと同時に、白い塊を壁に叩きつける。カンシャク玉か煙玉か、正直な話、時間を止められる己に対してそのような逃走方法は無意味に等しいのだが……あれはあれで狡賢い。

「はっくちゅっん!」
「残念、コショウ玉だよっ」
「あぐ、ま、まちなっくちゅんっ」

 ただのコショウ玉でもないらしい。
 弾幕の要領を併用して拡散させている為、有効範囲が広すぎる。涙ぐむ目で確認すれば、奴は既にマスクを装着済みだった。こちらと言えば思いきり吸い込んでしまった為、器官に入るし鼻はむずむずするし、涙は出るし溜まったものではない。

 一体どこのどいつが時間停止可能な人間を停止する手段を持ち得ると言うのか。恐らくこいつが初めてである。

「さいならー」
「あふっ、へくちゅんっ、くちゅんっ! あぶぶ……」

 懐中時計を掴み、体液でぐちゃぐちゃになる顔を押さえながら、無理やり時間を停止させる。
すぐにでも追いすがりたい所だが、あんまりにも顔が酷い。完全メイドを歌いながら顔真っ赤の鼻水だらけでは紅魔館の威信と尊厳に関わる。

 コショウの粒子を払いのけ、ハンカチで顔を拭く。落ち着くまで待って、やっとの事で行動を開始。奴が逃げたと思われる方向に向かえば、もう姿がなかった。なんと逃げ脚の早い奴なのか。これでは鈴仙が苦戦するのも致し方あるまい。

 コショウ結界から離れ、漸く時間を動かす。慌ただしい数秒はもはや過去。手にした魔法植物観察日記はVの一冊だけ。まさかの失態である。

 本をパラパラと捲り、内容を掻い摘んで読んで行く。あまり、気持ちの良い本ではないらしい。
 本を手にしたまま、咲夜はテラスへと戻る。パチュリーに今の結果を報告すると、ただ『そう』とだけ答えた。もはや、これ以上パチュリーに詮索を入れるのも無粋。目的は本の奪還へと変更される。



        ※



 掃除、洗濯、食事の準備。家事の一切が全て咲夜の担う所にある。メイド達のスケジュール管理、人里への買出し、お嬢様の我儘きき、パチュリーのお遣い。重なる事は無いにせよ、そのどれかしらが更に咲夜を圧迫している。が、勿論、文句など一つもないし、むしろ変わってもらっては困るのだ。

 自分は紅魔館という悪魔の館を維持する機能であり、これを満たす事によって自分の存在意義が保たれている。
普段通りならば、ストレスなんて無いし、疲れだって無い。人間の身であるからして、体力の限界はあるが、それこそ自分の能力があれば幾らでも誤魔化しがきく。

 自分ほど、ヒトに仕えてヒトを満足させられる人物もいないと、自負している。これは誇りだった。
 長い年月を生きた魔とは言え、レミリアも、フランも、パチュリーも、結局は容姿相応の少女でしかない。
美しい華達を愛でる己は、やはり幸せ者なのだ。

 誰が彼女たちの少女らしい微笑みを近くで見られるだろうか。まして人間なぞ、ゴミとしか思っていない連中であると言うのに、その気を許した表情は、咲夜にこそ見せてくれる。

「……」

 それこそが全て。
 十六夜咲夜の存在価値。
 これからも続く人生における大半を占めた、生活の在り方。

 夢を見られて幸せであったのなら、見続けるべきなのに。十六夜咲夜は、自分に自信がなくなる。自分は道具。道具だが、しかし、それは愛される道具であり、ゴミではない。長い間愛でられる、必要不可欠なものだ。

 レミリアは無邪気だが、咲夜に気を使っているし、本当に道具だと思っているなら、ねぎらいの言葉だって無い筈だ。

 可愛らしい彼女は、自分に笑顔を見せてくれる。

 今日もありがとう、おやすみなさい。
 おはよう咲夜、今日もよろしくね。

 本を開く。

「……ある日、門番が一人の少女を拾って来た」


 神無月 満月

 門番が一人の少女を拾って来た。外の人間かと思ったが、けれど現代の格好はしていない。調べたところ、この麻で出来た素材は日本の古代の服装であるようだ。つけている勾玉や装飾品から、彼女が高い地位の女であることは直ぐに解った。

 レミィがものほしそうな顔をしていたが、これは無視して私の研究室に運ぶ。どのようにしてこの時間軸に至ったかは知れないが、各所に火傷の痕が目立つ。瀕死であるからして、治療が必要だ。

 神無月 立待月

 水精と木精を用いた水槽に沈めてやる。意識は戻らずとも、多少の反応は見せるようだ。研究体の番号的にいえば00398番なので、398号と呼ぶ。私はあまり錬金術の類は得意でないから、せめてこれぐらいは成功させたいものだと思う。しななきゃいいけど。

 午前頃になって、一度目を覚ます。「おのれ」と言ったか。酷く憎々しそうに顔を歪めていた。

 神無月 下弦

 隕石襲来。妹様を繰り出してこれを撃墜。隕石とはいうけれども、そうでもないようだ。これはこれで利用価値がありそうなので、個人的に保存しておくこととする。ついでに、これを用いてみようとも思う。これはただの石ではない。非常に強力な時間固定の呪が掛っている。こんな『時』も動かないような物体をぶち壊す妹様は、やはり破格だと思う。

 レミィはその石の欠片を気にしていた。時期も時期なので、獅子座流星群の欠片とでも教えておこう。ある意味明示的だ。

 霜月 小望月

 00398号が目を覚ました。ここが何処だか分らず、相当に混乱しているらしい。それと、存在がとても希薄だ。水槽を出てから、何度も消え入りそうになっている。この事象の説明はつかないが、レミリアは呪で縛ることを勧めた。彼女はカムアタツと名乗り、そしてサクヤとも答えた。やってきたのが満月であったので、時間の交錯を意味する矛盾の語を含める。苗字を十六夜とし、名を咲夜とした。十六夜咲夜。つまり満月だ。

 呪を受けると彼女は固定化された。



「……はい?」

 荒唐無稽、意味不明。自室でお茶を飲みながら本を読んでいたのだが、なんとも可笑しな話に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 これを信じろと言うのか。無理がある。確かに、自分には過去の記憶などないが、流石にあんまりの話ではないか。
 仮にここに記述されたものが事実だとして、だからどうだと言うのだろうか。己の持っている疑問と言うのは、これほどにちっぽけであっただろうか。それだったらむしろ、今おかれる状況の方がよっぽど謎に満ちている。

「ふぅむ……」

 因幡てゐは恐らく、自分達の話を盗み聞きしていたのだろう。ここ最近何かしらが紅魔館周辺をうろついているとは思っていたが、まさか永遠亭の手のモノであるとは予想外だった。

 永琳の来訪もそうである。レミリアがあれ以来、込み入った話を口にしないのも気になる。
 ではこの本。本来意味するものは何なのか。

「……ああそうか……私が、か」

 問題の一つがここにある。
 自分に対する疑問だ。内容自体は然程問題でもない。訝るべきは現状。自分が自分に対して抱く疑問に対しての疑問。これは、そう、おかしいのだ。

 自分は真名を握られている。悪魔はその使役する動物の名前を掌握して、力を制御し、自分の都合の良い動物へと変えるのだ。故、その使役された動物は、ご主人様の為だけに存在し、その依るべき場所をご主人様と定める。だからこそ、己に疑問を持ったりはしない。

 自分もその類であるのではと、最近思い始めたのだ。どこでそのような思考が介在したのか……。
 いよいよもって怪しくなってきた。
 永琳の来訪、レミリアの沈黙、己の疑問、パチュリーの研究、そして因幡てゐの本強奪。
 永遠亭に向かわねばならない。このもやもやした感情は、晴らさずにはいられない。
 ――皆は、自分をどう思っているんだろう?

「カムアタツ……コノハナサクヤ……か」

 己が名乗ったとされる名前。本名であろうか。形式的な呪であるのかもしれない。
 紅茶を啜る。洩れる吐息は、苦悩する乙女のそれ。仕草は瀟洒であり、また耽美。自分の知らない自分は、さて、どれほどの存在であったのか。

「うん?」

 受け皿にカップを置くと同時に、カタカタと音を立てて震え始めた。紅い液体は波紋を広げ、そしてその波紋はやがて紅魔館を揺るがす。

「地震……んっ」

 ドン、という衝撃音。いつかも似たような事があった。この地鳴りは尋常から出るものではない。咲夜は早速もって立ち上がり、フランドールを呼びに地下へと降りる。途中、レミリアに出くわすが、レミリアはただ頷き、外へと向かった。

「フランお嬢様、お仕事ですわ」
「お姉さまから聞いたわ。運命通りだって」
「では、お願いしますわ」
「はいはい、連れてって」

 寝ぼけ眼のフランを担ぎ、廊下を疾走する。何事かと揉める妖精メイドを退け、中庭に出る頃には『アレ』は既に目前まで迫っていた。

 煌々と照る月と重なるようにして、赤黒い弾が押し寄せる。紅魔館を毎度襲う、所謂『隕石』だ。

「フランお嬢様」
「あいあい……ふぁああ……あふ……ぎゅっ」

 として

「どかーん」

 である。

 フランが掲げた手を思いきり握ると同時に、隕石は分割されるでもなく、ほぼ粉々の状態で周辺区域に飛び散った。その内の大きな塊が咲夜へと目掛け降り注ごうとするが……咲夜が対処する前に、レミリアが動いた。

「ふん」

 疾風の如き手腕は破片を一閃、瞬く間に塊を砂と化す。

「……ありがとうございます」
「……いいのよ」

 レミリアはそれだけ言い残し、そそくさと館内に退散してしまった。フランは呆けたまま空を見上げている。月が美しい所為だろうか。何かしらの因果を感じているのだろうか。

「フランお嬢様、お疲れ様です」
「咲夜、甘いのが食べたいわ」
「はい。あとでお持ちします」
「ふふ……愛されているのね、咲夜は」
「はい?」
「いいの。姉妹以上に愛される道具があったって良い」
「はあ」
「咲夜、運んでー」

 フランを担ぎ、また地下へと引き返す。彼女は兵器である事に甘んじているのだろうか。必要な時だけ呼び出されて不快ではないのだろうか。

 ある意味で、自分以上に扱いが悪い彼女は、そのあたりをどのように考えているのだろう。

「不躾かと思いますが、フランお嬢様」
「何かしら」
「ご不満ではないのですか」

 そう問われ、フランは背中で溜息を吐くと、咲夜の首を甘噛みした。

「あむあむ」
「あ、だめです、お戯れを」
「へんな事聞くからよ。メイドは黙ってご主人様の言う事ききなさい。ねえ、咲夜」
「私は……」
「あむあむ」
「あ、いけません、そんなにハムハムしては」

 フランは何も話そうとはしなかった。彼女は、思惑や、不満なんてものは、通り越しているのだろう。狂気と言い触らされて、腹を立てる事すら最早くだらない事実なのだろう。十六夜咲夜が見る限りにおいては、フランドールはやんちゃな子供であり、備えるべき威厳を持った吸血鬼である。生まれて数年もたたないような小娘が口を出せる事柄でもない。



        ※



 フランを地下に戻し、さっさとケーキ作りに精を出す。あの能力は凶悪だが、消耗するところも激しいと聞く。微々たるものだが、食事で養えるならそれに越した事実はない。砂糖は、まあ些か貴重であるが。

 それと並行してレミリアの食事も作る。最近は寝つけていない様子で、食事の時間もバラバラだ。咲夜のメイドとしての勘で言えば、恐らくしっかりと食べたいぐらいの腹具合だろう。それに、しばらくレミリアに食事を作ってやれなくなる。

「はい、甘いものですわ、フランお嬢様」
「んー。咲夜のケーキは美味しいわね」
「有難うございます」
「……なにを悩んでいるか知らないけど」
「――」
「あなたは立派だわ。そして、私は家族だと思ってる」
「……はい」

 心を見透かされた。姉同様、人の意思を汲み取る力があるのだろうか。咲夜はフランに頭を下げて退出する。こちらの心積もりはもう決まっていた。

 続いてレミリアに食事を運ぶ。部屋に入ると、そこにはパチュリーも居た。こちらを見るようにしてから、ただ、頭を下げた。

「……良いワインがあるんです。お飲みになられますか、お嬢様」
「ええ。どうせ、即席のヴィンテージでしょうけどね」

 どのような暗喩であっただろうか。深くは考えない。汲み取る必要もない。

「実は、因幡てゐが図書館の本を強奪して行きました」

 ここでひとつ、話のネタを提供する。これは己の意思を伝える手段でもある。レミリアはその話を聞き、ただつまらなそうに『ふぅん』とだけ答えた。

「その本には、私の事が記されているようです、ねえ、パチュリー様」
「そうね」
「だからなんだ、咲夜」
「はい。永遠亭に行き、これを奪還します。しばらく、暇を頂いてもよろしいでしょうか」

 切り出す。レミリアは、尚も動かない。もしかしたら、こうなる事を予見していたのかもしれない。パチュリーは半ばまで注がれたワイングラスを手にし、くるくると回して香りを楽しむようにしている。意見はないらしい。

「好きになさい」
「――有難うございます」

 二人が食事に手をつけ始める。
 これから先、自分に何かしらの変化があり、現状を維持出来なくなってしまったら。これがきっと、最後の晩餐になるのだろう。危機感はない。ないが、不安はある。

 この二人は、自分の知らない自分を知っている。夢にたゆたうようにして生きる己の現実を見知り、あえて口にしてはいない。

 知って良かったこと。知らなくてよかったこと。
 あえて知る事を選ぶ愚になるか。知らず愚を演じ続けるのか。咲夜が今踏み出そうとしているモノは、そういう領域なのだ。

「永琳に、聞くといいわ」
「そのつもりです」
「それと……」

 レミリアはナイフとフォークを置き、口を拭く。咲夜を見て、早熟のワインを、一気に飲み干した。

「貴女は帰ってくる。私には見えるから」

 それに、答えてやれれば良かった。だが、見えぬ未来に対して、確たる答えを出してはやれない。咲夜はただ、ふかぶかと頭を下げて立ち去る。

 咲夜は部屋へと戻り、紅魔館を出る準備を始める。
 どのような準備が必要になるだろかと思案し、そこまで大仰でも仕方なかろうと結論付け、必要最低限の物だけを揃える。

 服は……メイド服で構わないだろう。空間を弄ったスカートの中に仕舞い込む。日用品とナイフを詰め込み、食み出していないかチェックし、頷く。

 永遠亭へ行く日程プランを脳内に作り、また一人納得する。これから出れば一旦人里で休んで、明日にも竹林へと向かえるだろう。

 ふと、部屋にある鏡台が目に入る。首から下げた懐中時計が、外から漏れた光に反射して薄く煌めいた。
 ……首から外し、鏡台の上に置く。奉仕しないのならば、必要ない筈だ。

『行くのか。なれば』

「……誰?」

 脳内を掠める声に対して問いかける。
 しかし、返答はない。訝り、疑い、溜息を吐いてから、咲夜は紅魔館を出て行く。
 一度だけ振り返り、さようならと呟いた。
 


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